優良ブリーダーを見極める!獣医師監修「5つの自由」チェックリスト
ワンちゃんを家族に迎えるとき、最初に直面するのが「どんなブリーダーから迎えるか」という選択です。見た目や価格だけで選んでしまうと、実は犬たちが劣悪な環境で育てられていた…という悲しい現実につながることもあります。
そこで国際的に動物福祉の基準とされる「5つの自由」に注目。
この記事ではこの考え方をもとに、優良ブリーダーと悪徳ブリーダーの違いを整理しました。
さらに、実際にブリーダーを訪ねた際に役立つ 質問例や現地での確認ポイントをまとめたチェックリスト もご用意。
読んだ方がすぐに使える「見極めの具体的な視点」が詰まっています。ぜひ子犬を迎える前に参考にしてください。
犬の「5つの自由」とは
「5つの自由(Five Freedoms)」は、1965年にイギリスで提唱され、その後世界中で動物福祉の基本原則として広く採用されてきました。
家畜からペットまで、動物が最低限守られるべき権利をシンプルに示したものです。
犬にとっても、この「5つの自由」が守られているかどうかは、心身の健康や幸せに直結します。
ブリーダー選びにこの視点を持つことは、飼い主にとって 「健全な繁殖をしているかどうか」を見極める有効な基準 になります。
【5つの自由】
- ①飢え・渇きからの自由:清潔な水と適切な食事を得られること
- ②不快からの自由:清潔で快適な環境に住み、過密や不衛生から解放されること
- ③痛み・傷害・病気からの自由:病気や怪我を防ぎ、必要な治療を受けられること
- ④恐怖や抑圧からの自由:精神的に安心し、恐怖や強制から解放されること
- ⑤正常な行動をする自由:犬本来の行動(走る・遊ぶ・群れる)を自然に発揮できること
優良ブリーダーと悪徳ブリーダーの違い
次に「5つの自由」をもとに、優良ブリーダーと悪徳ブリーダーの具体的な違いを見ていきましょう。
① 飢え・渇きからの自由
新鮮な飲み水の確保
- 🟢 優良ブリーダー:いつでもきれいな水を用意し、容器もこまめに洗浄して清潔を保つ
- 🔴 悪徳ブリーダー:給水器が空のまま放置/汚れた水を何時間もそのままにする
高品質な食事
- 🟢 優良ブリーダー:悪い添加物が入ってなく、栄養バランスの整った高品質なフードを与え、必要な栄養素がしっかり満たされるよう配慮する
- 🔴 悪徳ブリーダー:コスト最優先で安価で添加物の多いフードを与え、栄養が偏る
体調や成長に応じた食事管理
- 🟢 優良ブリーダー:子犬・成犬・シニアごとにフードを変え、個体の体調やアレルギーにも対応して調整する
- 🔴 悪徳ブリーダー:全頭に同じ餌を与え、成長や体調に合わなくても放置する
② 不快からの自由(快適な環境)
清潔な環境維持
- 🟢 優良ブリーダー:毎日の清掃・消毒を徹底し、汚れたらすぐ掃除。常に清潔な環境を維持。犬の被毛や皮膚・耳も清潔に保たれている
- 🔴 悪徳ブリーダー:糞尿が放置され、悪臭や害虫が蔓延。犬は汚れや皮膚トラブルを抱え、不快と感染症リスクにさらされる
適切な温度・湿度管理
- 🟢 優良ブリーダー:冷暖房や換気を整え、四季に応じた温度湿度を管理。外で遊ぶ場合は日陰も確保
- 🔴 悪徳ブリーダー:真夏や真冬に空調がなく、犬が暑さ寒さで命の危険にさらされる。中には屋外に出しっぱなしにされ、熱中症や低体温症に陥るケースもある
余裕のある飼育スペース
- 🟢 優良ブリーダー:犬が自由に動き、遊びや運動もできる十分な広さを用意
- 🔴 悪徳ブリーダー:狭いケージや棚に押し込み、身動きが取れない
③ 痛み・傷害・病気からの自由
不要な処置
- 🟢 優良ブリーダー:断尾・断耳など不必要な処置をせず、自然な体を尊重
- 🔴 悪徳ブリーダー:販売目的で断尾・断耳を行い、麻酔なしの切断や声帯切除をするケースも
母犬の健康を守る出産管理
- 🟢 優良ブリーダー:初回ヒートは飛ばし、母犬の体調が戻らなければ交配を見送り、無理に出産させない。繁殖に向かないと判断すれば引退させる。帝王切開は医学的に必要な場合のみ、慎重に実施する(3回以上の場合は説明必要)
- 🔴 悪徳ブリーダー:利益優先で早期から繁殖させ、法令上限いっぱいまで出産。場合によってはミックス犬を繁殖して抜け道で法令以上に産ませる。帝王切開も自己都合で行う
適切な繁殖管理
- 🟢 優良ブリーダー:交配前に、遺伝疾患リスクを抑えるための事前チェックを行い、子犬の遺伝疾患リスクを防ぐ
- 🔴 悪徳ブリーダー:疾患リスクを無視して繁殖し、子犬に遺伝疾患が発症することも
適切な健康管理
- 🟢 優良ブリーダー:毛や歯を含めた日常の健康管理を徹底。診療記録や検査結果も飼い主に開示でき、体調不良や怪我があればすぐ獣医師にかける
- 🔴 悪徳ブリーダー:病気や怪我を放置。日常のケアを怠り、病院代を惜しんで違法薬を自己判断で使用することもある
④ 恐怖や抑圧からの自由
愛情ある接し方
- 🟢 優良ブリーダー:犬を「家族」として愛情をもって接し、声かけやスキンシップを大切にする。法令基準より少ない頭数で、一頭一頭に時間をかけてケアする
- 🔴 悪徳ブリーダー:犬を「商品」としか見ず、叩く・怒鳴るなど恐怖で制御。犬は常に怯えながら暮らす
ペットショップやペットオークションに卸さない
- 🟢 優良ブリーダー:子犬に負担の大きいペットショップやオークションには卸さず、直接飼い主と信頼関係を結ぶ
- 🔴 悪徳ブリーダー:売ること優先で、ペットショップやオークションに卸し、犬を劣悪な環境で長距離移動させ「商品」として扱う
引退犬の余生を大切に
- 🟢 優良ブリーダー:繁殖を終えた犬も家族として暮らし続けたり、信頼できる飼い主に託す
- 🔴 悪徳ブリーダー:引退犬を「コスト」としか見ず、引取業者に出したり、悪徳保護団体に渡して「保護犬」と偽って販売する
⑤ 正常な行動をする自由
十分な運動機会
- 🟢 優良ブリーダー:犬種や月齢に応じた運動を確保し、庭や運動場で走り回れる。日光浴を通じて心身を健やかに育てる
- 🔴 悪徳ブリーダー:一日中ケージに閉じ込められ、運動不足で筋力も衰え、ストレスが蓄積。常同行動(同じ動きを繰り返す、ケージをかじる等)が見られる
群れでの触れ合い
- 🟢 優良ブリーダー:母犬や兄弟犬、同居犬と一緒に過ごし、群れとしての自然な行動を育む
- 🔴 悪徳ブリーダー:孤立飼育で兄弟や母犬と遊ぶ機会がなく、犬にとって本来の群れ行動が断たれてしまう
純犬種本来の魅力を守る
- 🟢 優良ブリーダー:純犬種のスタンダードを尊重し、ミックス犬はもちろん、健康を犠牲にするレアカラーや極小犬を無理に作らない
- 🔴 悪徳ブリーダー:見た目や流行を優先し、ミックス犬やレアカラー、過度に小さな犬を作り出して販売する
飼い主のためのチェックリスト
ここまで「優良ブリーダーと悪徳ブリーダーの違い」を整理してきました。
次にご紹介するのは、実際にブリーダーを訪ねたときに役立つ 質問例と現地での確認ポイント です。
見学時にこのリストを手元に置けば、感覚や印象だけでなく、具体的な基準でブリーダーを判断できます。
子犬を迎える前にぜひ参考にしてください。
① 飢え・渇きからの自由
質問例
- お水はどれくらいの頻度で替えていますか?
→ 朝晩しっかり交換しているかを確認! - どんなフードを与えていますか?
→ 年齢や体調に合ったフードを選び、理由も説明できるかが大事。
現地確認
- 水皿が汚れている/水が入っていない
→ 給水管理が不十分 - ワンちゃんがガリガリに痩せている
→ ごはんを減らされている可能性
② 不快からの自由
質問例
- 犬舎のお掃除はどのくらいの頻度ですか?
→ 最低でも朝晩。汚れたらすぐ対応できているか。 - 温度や湿度はどう管理していますか?
→ 冷暖房で管理しているか。 - ワンちゃんは普段どのようなスペースで生活していますか?
→ 長時間狭いケージに閉じ込められていないか?
現地確認
- 強いアンモニア臭や糞尿の放置
→ 衛生管理が不十分 - 冷暖房・換気設備がない
→ 温湿度管理が不十分 - ケージが汚い、フード散乱
→ 清掃不足 - 親犬の毛や耳がベタつき・赤み
→ ケア不足
③ 痛み・傷害・病気からの自由
質問例
- 母犬の出産管理はどうしていますか?
→ 無理のない出産をしているか、帝王切開は慎重に。 - 断尾・断耳や声帯切除をしていませんか?
→ 理由もなく見た目だけの処置をしていないか。 - 日々の健康ケアはどうしていますか?
→ 毛や歯のお手入れ、かかりつけ獣医での定期チェック。 - 遺伝疾患対策はどうしていますか?
→ 犬種ごとに必要な検査を行い、問題のない交配をしているか。
現地確認
- 親犬が痩せすぎ・疲れている)
→ 無理な出産の疑い - 親犬の歯石や強い口臭
→ ケア不足 - 耳や尻尾が不自然/声がかすれている
→不要な処置のサイン - 診療記録やワクチン証明を出せない
→ 実施していない可能性あり
④ 恐怖や抑圧からの自由
質問例
- 普段はどのようにワンちゃんたちと接していますか?
→ 声かけ・遊び・ケアなどを具体的に説明できるか。 - ペットオークションやショップに卸していませんか?
→ 長距離輸送など子犬に負担の大きい流通は避けているか。 - 引退犬はどうしていますか?
→ 最後まで一緒に暮らすか、信頼できる里親に託しているか。
現地確認
- 子犬や成犬が母犬や仲間と安心して遊び、休めているか
→ 早期分離や孤立はNG - 親犬が人を見て怯えず、目や耳・尻尾が柔らかく表情豊かか
→ 上目遣い・凍りつき・過度な回避は要注意。無感情/常時怯えはストレスサイン(手を出した時に頭を下げてオドオドしていたら、要注意) - 見学時の対応から、愛情を持って落ち着いて接しているか
→ 親犬の性格説明や名前を呼ぶなど、優しく触れ合っているか
⑤ 正常な行動をする自由
質問例
- 毎日の運動はどのくらいですか?
→ 犬種に合わせて、十分な時間を確保しているか。 - 犬同士の遊びはどうしていますか?
→ケージに入れっぱなしはNG。母犬・兄弟・同居犬と触れ合えているか。 - ミックス犬やレアカラーを繁殖していませんか?
→ 健康を犠牲にせず、純犬種のスタンダードを尊重しているか。
現地確認
- 庭や運動スペースがない
→ 運動・社会化が不足 - 行ったり来たり・ケージかじり
→ ストレスのサイン - 爪が極端に長い/短すぎる
→ ケア不足やストレス
まとめ
犬の「5つの自由」は、世界基準の動物福祉の考え方であり、ブリーダー選びをする際の重要な判断軸です。
優良ブリーダーと悪徳ブリーダーの差は、犬が 「幸せに生きられるか」を分ける決定的な違いになります。
子犬を迎えるときは「かわいいから」「安いから」ではなく、この5つの自由を守れているかという視点でブリーダーをチェックしてください。
それが犬の命を守り、飼い主と犬が共に幸せに暮らす第一歩となります。
本記事監修の獣医師
最後に、今回のチェックリストを監修していただいた今本獣医師のコメントをご紹介します。
奈良県葛城市 新庄動物病院 院長
獣医師 今本成樹(いまもと しげき)さん
帝京科学大学非常勤講師。PennHIP認定医(アメリカ)、WUSV認定レントゲン実施獣医師(ドイツ)。ねこ医学会(JSFM)認定 CATvocate(猫の専任従事者)。防災士。
2000年に北里大学獣医畜産学部獣医学科を卒業後、大学院研究生として東京大学農学部生命科学科に在学。勤務医を経て、2002年2月に新庄動物病院を開業。日本小動物獣医学会(近畿地区大会)において遺伝性疾患の研究で症例研究褒賞を3度受賞。
獣医関連の学会誌、情報誌に遺伝性疾患に関する投稿を行うとともに、学会・研究会、各団体、小中学校などにおいて遺伝性疾患や動物愛護、命の問題に関する講演を数多く実施している。
直近では比較統合医療学会で学会長賞も受賞している。
今本先生コメント
ブリーディングは“金儲けの道具”ではなく、犬種を愛し、健全な血統を次世代に残すための営みであるべきです。
毛艶や元気さ、犬の表情を見れば、その子がどんな環境で育ってきたかが分かります。
残念ながら、劣悪な繁殖環境で育った子犬は寄生虫やウイルスの感染リスクも高く、飼い主とワンちゃんの双方に負担を与えるケースも少なくありません。
だからこそ、飼い主の皆さんには“5つの自由”を基準に、実際に現場を見て判断していただきたいのです。
健全なブリーダーを選ぶことが、ワンちゃんの幸せだけでなく、飼い主自身の幸せにもつながります。
ぜひ見学の際には、このチェックリストを手に取り、未来の家族を迎える第一歩にしてください。