犬の断尾とは?なぜコーギーやトイプードルのしっぽを切るのか、そのメリット・デメリットを解説

ワンちゃんの「断尾(だんび)」は、一部の犬種で長年にわたって行われてきた慣習です。コーギーやトイプードルなどの犬種では、しっぽを切ることが一般的でしたが、近年ではその是非が議論されています。この記事では、犬の断尾の歴史や理由、メリット・デメリット、さらに世界各国の規制について詳しく解説します。ワンちゃんの福祉の観点から、断尾の必要性について一緒に考えてみましょう。

 

犬の断尾(だんび)とは?

犬の断尾(だんび)とは、ワンちゃんのしっぽを外科的に切除または短縮する処置のことを指します。通常、生後数日以内の子犬に行われることが多く、犬種によっては伝統的に断尾された姿が標準とされてきました。しかし近年、動物福祉の観点から断尾の是非が議論されるようになり、多くの国で規制が強化されています。

断尾が行われてきた歴史

ワンちゃんの断尾の歴史は非常に古く、紀元前の時代から行われていたと考えられています。古代ローマでは、猟犬のしっぽを切ることで病気を防ぐと信じられていました。また、中世ヨーロッパでは、しっぽの長さによって犬にかかる税が決まる地域もあり、税負担を軽減するために断尾が行われることもありました。

その後、作業犬としての役割を担う犬種において断尾が一般化しました。例えば、牧畜犬や狩猟犬、護衛犬などでは、しっぽが障害物に引っかかったり、敵に噛まれたりするリスクを避けるために、断尾が行われるようになりました。

19世紀以降になると、犬種ごとの外見基準(スタンダード)が確立され、ドッグショーの基準としても断尾が求められる犬種が出てきました。こうした伝統を維持するために、現在でも一部の犬種では断尾が続けられています。

しかし、近年では動物福祉の意識が高まり、断尾がワンちゃんの健康や生活の質に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。そのため、ヨーロッパやオーストラリアをはじめとする多くの国では、外見のための断尾は禁止されるようになりました。

 

なぜ犬の尻尾を切るのか?

ワンちゃんのしっぽを切る理由には、主に以下の3つの観点があります。

1. 仕事上の理由で安全を確保するため

牧畜犬や狩猟犬、護衛犬などの作業犬では、しっぽが障害物に引っかかったり、敵に噛まれたりするリスクがあります。特に、コーギーのような牧畜犬は、牛や羊の間をすばやく動き回る必要があり、しっぽを踏まれるリスクを避けるために断尾が行われていました。ドーベルマンやロットワイラーのような護衛犬では、攻撃を受けた際にしっぽを掴まれて動きを封じられることを防ぐ目的もありました。

しかし、現代ではこれらの犬種が家庭犬として飼われることが増え、作業目的での断尾の必要性は減少しています。そのため、断尾を行わずに自然な姿で育てる動きが広がってきています。

2. 外見や犬種の伝統を維持するため

ドッグショーの基準やブリーダーの繁殖方針によって、一部の犬種では「断尾された姿が標準」とされているケースがあります。特に、19世紀以降に確立された犬種スタンダードの影響が大きく、現在でも断尾された姿が一般的な犬種も存在します。

また、日本では「しっぽが短い姿=その犬種本来の姿」と誤解している消費者も多く、ペットショップや一部のブリーダーでは消費者の需要に応える形で断尾が続けられている側面もあります。

しかし、近年では海外のドッグショーでは断尾しないのが標準になりつつあります。特に、FCI(国際畜犬連盟)の基準を採用する国々では、外見目的の断尾が禁止されており、自然な姿が推奨されています。これに伴い、ブリーダーの間でも断尾を行わない動きが広がっています。

日本では依然として断尾が前提となっている犬種もありますが、プードルのように基準が変わりつつある犬種もあります。

3. 汚れにくくし衛生的に保つため

しっぽが長いと糞便や泥が付きやすく、特に長毛種では絡まってしまうことがあります。これを防ぐために、衛生面の観点から断尾が行われることがありました。

しかし、定期的なグルーミングや適切な環境整備を行うことで、断尾をせずとも清潔を維持できるケースも多く、この理由での断尾の必要性は薄れつつあります。

このように、断尾にはさまざまな理由がありましたが、現在ではその必要性が見直され、ワンちゃんの自然な姿を尊重する方向へと変化しつつあります。

 

断尾されてきた代表的な犬種

断尾が行われてきた犬種には、それぞれ歴史的な役割がありました。ここでは、代表的な犬種とその背景について説明します。

1. ドーベルマン

ドーベルマンは、19世紀にドイツの税徴収官ルイス・ドーベルマンによって護衛犬として作出された犬種です。優れた俊敏性と警戒心の強さを活かし、警察犬や軍用犬として活躍してきました。断尾は、闘争時にしっぽを掴まれたり、怪我をするリスクを減らす目的で行われてきました。

現在でもその伝統が一部で残っていますが、警察犬や家庭犬としての役割が強くなるにつれ、自然な姿を維持する動きも増えています。

2. ロットワイラー

ロットワイラーは、ローマ時代から家畜の護衛や荷物の運搬を担ってきた犬種です。中世のドイツでは、肉屋が牛を市場へ運ぶ際に護衛犬として使い、荷車を引く作業もしていました。しっぽを短くすることで、仕事中に障害物に引っかかるのを防ぎ、負傷のリスクを減らす目的がありました。

現在では作業犬としての役割は減りましたが、家庭犬や警護犬として人気があります。

3. ヨークシャーテリア

ヨークシャーテリアは、19世紀のイギリスで炭鉱や工場のネズミを駆除するために作られた小型犬です。素早く動き回り、小さな隙間にも入り込めるように改良されました。断尾は、作業中にしっぽが障害物に引っかかるのを防ぐ目的で行われていました。

しかし、現在では完全に愛玩犬としての役割が定着し、断尾の必要性はなくなっています。

4. トイプードル

プードルはもともとフランスでカモ猟の補助をする水猟犬として活躍していました。泳ぎが得意で、獲物を回収するために水辺へ入ることが多かったため、しっぽの動きが水の抵抗を受けにくいように短くする目的で断尾が行われていました。

しかし、トイプードルは主に愛玩犬として飼われるようになり、現在では断尾の必要性がほぼなくなっています。

5. コーギー

コーギーはもともとイギリスで牧畜犬として使われ、特に牛追いの役割を担っていました。牛の足元をすばやく動き回り、かかとを軽く噛んで誘導する「ヒーラー」としての働きをしていたため、しっぽが長いと牛に踏まれる危険がありました。そのため、作業中の怪我を防ぐ目的で断尾が行われてきました。

現在では牧畜の仕事をするコーギーは減り、ペットとしての人気が高まる中で、しっぽを残す選択をするブリーダーも増えています。

6. その他の犬種

以下の犬種も伝統的に断尾が行われてきた代表的な犬種です。

  • ボクサー(警護犬として断尾されることが多かった)
  • ミニチュアシュナウザー(ネズミ駆除犬として活動していたため)
  • ワイマラナー(猟犬として使われ、しっぽを短くすることで負傷リスクを軽減)

このように、断尾は歴史的に実用的な目的があったものの、現代ではその必要性が低下し、自然な姿を尊重する動きが広がっています。

 

犬の断尾が行われる時期

犬の断尾は一般的に生後3〜5日以内に行われることが多いです。この時期に行われる理由としては、以下の点が挙げられます。

1. 神経が未発達で痛みを感じにくいと考えられていた

昔から「生後数日の子犬はまだ神経が発達しておらず、痛みを感じにくい」と考えられてきました。しかし、近年の研究では、生後すぐの子犬でも痛みを感じることが分かってきており、断尾によるストレスが後の成長に影響を与える可能性が指摘されています。

2. 出血や感染症のリスクが少ないとされる

生後数日の間は血管が細く、出血が少ないため、外科的な処置が比較的簡単に行えると考えられています。また、傷の回復も早いとされており、手術の負担が少ないという理由でこの時期が選ばれてきました。ただし、これはあくまで過去の慣習に基づいた考え方であり、実際には適切なケアをしなければ感染症や痛みが生じるリスクもあります。

3. 子犬がまだ目を開いておらず、動きが少ない

子犬は生後10日〜14日ほどで目を開けるため、その前の段階で断尾を行うことで、暴れたりせず処置がしやすいと考えられています。しかし、動きが少ないという理由だけで行われることが適切なのかどうかは、動物福祉の観点からは疑問視されています。

このように、伝統的には「生後3〜5日頃が最も負担が少ない」とされてきましたが、近年では犬の痛みやストレスを考慮し、断尾そのものを避けるべきではないかという意見が増えています。

 

犬の断尾をする方法

犬の断尾には、大きく分けて外科的に切除する方法としっぽを縛って壊死させる方法の2種類があります。それぞれの方法には異なる特徴やリスクがあり、近年ではどちらの方法も動物福祉の観点から問題視されています。

1. しっぽを外科的に切断する方法

メスやハサミを使ってしっぽを切断し、出血を抑えるために縫合や消毒を行う方法です。通常、生後3〜5日以内の子犬に施されますが、日本では獣医師ではなくブリーダーが独自に行うケースもあります。短時間で処置が完了するものの、しっぽには多くの神経が通っており、神経の損傷による慢性的な痛みや神経腫(しんけいしゅ)と呼ばれる神経腫瘍が形成されるリスクがあります。また、無麻酔で行われることもあり、生後間もない子犬でも強い痛みを感じている可能性が指摘されています。適切なケアがされなければ、傷口の感染や炎症のリスクも高まります。

2. しっぽを縛り、壊死させる方法

ゴムバンドや糸でしっぽの根元を縛り、血流を遮断することで壊死させ、数日後に自然に脱落させる方法です。外科的な手術を必要としないため、かつては農村部などで簡便に行われていました。しかし、壊死が進む過程で強い痛みを伴い、数日間にわたって子犬に大きなストレスを与えるとされています。さらに、壊死部分が落ちた際に傷口が開くことで出血や感染症のリスクが高まるため、多くの国ではこの方法の使用が禁止されています。

 

 断尾のメリット・デメリット

犬の断尾には、伝統的にいくつかのメリットがあると考えられてきました。しかし、近年ではそのデメリットやリスクが多く指摘されており、動物福祉の観点からも見直すべき処置とされています。ここでは、それぞれについて詳しく解説します。

断尾のメリット

断尾には、一部の犬種で外見を維持する目的や、衛生面の改善が期待されることがありました。また、作業犬として使用されていた犬種では、しっぽを怪我から守るために行われてきた歴史があります。しかし、現代では適切なケアや環境整備によって代替できるため、メリットはほとんどないと考えられています。

断尾のデメリット

1. 断尾の瞬間の痛み

断尾は通常、生後3~5日の子犬に行われますが、この時点でも痛みを感じている可能性があると考えられています。

過去には、「生後間もない子犬は神経が未発達で痛みを感じにくい」という説がありました。しかし、近年の研究では、この時期の子犬でも痛覚神経はすでに発達しており、強い痛みを伴う可能性が高いことが分かっています。実際に、断尾の際に子犬が激しく鳴くことが多いことからも、痛みを感じていると考えられます。

特に、ブリーダーが無麻酔で断尾を行うケースもあり、痛みを和らげる処置が十分でないことも問題視されています。また、縫合や止血処置が適切に行われないと、出血や炎症を引き起こすリスクが高まります。

2. 慢性的な痛みのリスク(※1)

断尾は単なる一時的な処置ではなく、その後の生活にも影響を及ぼす可能性があります。

しっぽには多くの神経が通っており、切断することで神経が過敏になり、痛みを感じやすい体質になることがあります。特に、神経腫(しんけいしゅ)と呼ばれる異常な神経の増殖が起こると、わずかな刺激でも強い痛みを引き起こすことがあります。

また、しっぽはワンちゃんが体のバランスを取るための重要な役割を担っています。断尾された犬は、歩行時の安定性が損なわれることがあり、特に運動量の多い犬種では影響が大きい可能性があります。

3. コミュニケーション能力の低下(※1)

しっぽはワンちゃんが感情を表現するための大切なツールです。

犬同士のコミュニケーションでは、しっぽの動きが「遊びたい」「警戒している」「リラックスしている」といった感情を伝える重要な役割を果たします。しかし、断尾されることでこうしたサインが伝わりにくくなり、他の犬との誤解やトラブルの原因になることがあります。

また、人間との関係においても、しっぽの動きは飼い主がワンちゃんの気持ちを理解するための重要な手がかりとなります。例えば、嬉しいときにしっぽを振る、怖いときにしっぽを下げるといった行動は、飼い主がワンちゃんの感情を読み取るのに役立ちます。断尾によってこれらのサインがなくなると、飼い主が適切な対応を取りにくくなる可能性があります。

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断尾に関する法律と規制

犬の断尾は、国や地域によって法的な扱いが異なります。日本では現在、断尾を制限する法律は存在しませんが、動物福祉の意識が高まる中で、ブリーダーや飼い主の意識が変わりつつあります。一方、欧米を中心とした動物福祉先進国では、外見目的の断尾が法律で禁止されている国が増えています。ここでは、日本および海外の断尾に関する法律や規制について詳しく解説します。

日本における犬の断尾に関する法律や状況

日本では現在、犬の断尾を明確に禁止する法律はありません。動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)においても、しっぽを切ること自体を規制する条項はなく、合法的に行うことができます。

しかし、日本の動物愛護管理法では、「動物に不必要な苦痛を与えてはならない」という動物虐待防止の規定があります。断尾がワンちゃんにとって不必要な苦痛にあたるのではないかという議論が高まる中、将来的に規制が強化される可能性も指摘されています。

また、現在の日本では、獣医師でなくてもブリーダーが独自に断尾を行うことがあるのが実情です。海外では獣医師が行うことが義務化されている国も多い中、日本ではブリーダーやペットショップの判断で行われることが多く、適切な衛生管理や痛みのケアがなされないケースもあると考えられます。

一方で、日本のドッグショーの基準においては、犬種によっては断尾された姿がスタンダードとされている場合があります。そのため、ショードッグを育成するブリーダーの中には、外見基準を維持するために断尾を続けているケースもあります。

しかし、プードルのように一部の犬種では断尾を前提としない方向に基準が変わってきていることから、日本のドッグショー業界でも徐々に変化が見られています。

また、動物福祉の観点から断尾をしない選択をするブリーダーも、多くはないですが、徐々に増えてきております。 

海外における断尾の規制と日本との違い

海外では、特に動物福祉が進んでいる国々で、犬の断尾に対する厳しい規制が導入されています。

1. ヨーロッパの規制

ヨーロッパでは、EU(欧州連合)の動物福祉基準が厳しく、犬の外見を理由とした断尾を禁止している国が多くあります。

  • ドイツ:動物保護法(Tierschutzgesetz)により、犬の断尾は基本的に禁止。特定の作業犬(警察犬など)を除き、獣医師が行う場合であっても認められない。
  • イギリス:2006年の動物福祉法(Animal Welfare Act)で、家庭犬の断尾は禁止。ただし、作業犬として登録されている一部の犬種は例外として認められる。
  • ノルウェー・スウェーデン:外見を目的とした断尾は完全禁止。違反した場合、罰則が科せられる。
  • フランス・オランダ:断尾は基本的に禁止。ただし、特定の条件下で獣医師が行う場合のみ認められることがある。

また、ヨーロッパの多くの国では、断尾された犬はドッグショーに出場できないという規定があり、これによりブリーダーの間でも断尾をしない流れが加速しています。

2. オーストラリア・ニュージーランドの規制

オーストラリアやニュージーランドでも、動物福祉法に基づき外見目的の断尾は全面禁止されています。獣医師が医療上の理由で行う場合のみ認められますが、それ以外の目的では違法とされています。違反すると罰則が科せられることもあり、断尾をしないのが一般的になっています。

3. アメリカ・カナダの規制

アメリカでは州ごとに規制が異なり、完全禁止の州もあれば、ドッグショーの基準に基づいて断尾が許可されている州もあります。ただし、動物福祉団体の働きかけにより、家庭犬の断尾をしないことを推奨する動きが広がっているのが現状です。カナダでも州によって規制が異なりますが、イギリスやオーストラリアに倣って禁止する州が増えています。

4. 国際的な動き(FCIの基準)

国際的な畜犬団体であるFCI(国際畜犬連盟)では、近年、外見目的の断尾を禁止する方向に動いています。FCIのルールを採用している国では、ドッグショーにおいて断尾された犬が出場できない場合もあり、ブリーダーの間でも「自然な姿を残すこと」が重視されるようになっています。

 

まとめ

犬の断尾は、歴史的に作業犬の怪我防止や外見維持のために行われてきましたが、現代ではその必要性が大きく減少しています。特に動物福祉の意識が高まる中で、断尾による痛みやストレス、コミュニケーション能力の低下といったデメリットが問題視されています。

海外ではすでに多くの国で外見目的の断尾が禁止されており、日本でも断尾を行わないブリーダーが増えつつあります。ワンちゃんの健康と福祉を第一に考え、本当に必要な処置なのかを見直すことが求められています。

 

【参考文献】

※1David J. Mellor, Tail Docking of Canine Puppies: Reassessment of the Tail’s Role in Communication, the Acute Pain Caused by Docking and Interpretation of Behavioural Responses (犬の子犬の断尾:コミュニケーションにおける尾の役割の再評価、断尾によって引き起こされる急性疼痛、行動反応の解釈).PMCID: PMC6028921 PMID: 29857482https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6028921/

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