犬の断耳とは?なぜドーベルマンやシュナウザーの耳を切る?その必要性を解説

犬の断耳(だんじ)は、ドーベルマンやシュナウザーなど特定の犬種で行われる耳の外科的処置です。歴史的には作業犬や護衛犬としての機能を高める目的がありましたが、現在では外見のために行われることがほとんどです。

しかし、動物福祉の観点から問題視され、多くの国で禁止されるようになっています。本記事では、犬の断耳の目的や手術の方法、メリット・デメリット、さらには国内外の法規制について詳しく解説します。

 

犬の断耳(だんじ)とは?

犬の断耳(だんじ)とは、ワンちゃんの耳を外科的に切除または整形する手術のことを指します。 主にドーベルマンやシュナウザーなどの犬種で行われ、耳を立たせる目的で実施されることが多いです。通常、生後数週間以内に手術が行われ、手術後は適切なケアを施しながら形を固定する必要があります。

 

断耳が行われてきた歴史

犬の断耳の歴史は非常に古く、紀元前の時代から行われていたと考えられています。古代ローマでは、狩猟犬や戦闘犬の耳を切ることで敵に噛まれるリスクを減らす目的があったとされています。また、中世ヨーロッパでは、泥棒や侵入者に対する護衛犬としての役割を強化するために、耳を切ることでより警戒心を持たせると考えられていました。

19世紀以降になると、犬種ごとの「スタンダード(理想の外見)」が確立され、ドッグショーにおいて特定の犬種の外観として断耳が求められるようになりました。特に、ドーベルマンやシュナウザーなどでは、立ち耳の姿が「理想の外見」として受け入れられ、現在も一部のブリーダーや飼い主の間で断耳が続けられています。

しかし、現代では断耳がワンちゃんの健康に与える影響や、痛みを伴う処置であることが問題視され、多くの国で禁止されるようになっています。

 

なぜ犬の耳を切るのか?

ワンちゃんの耳を切る理由には、主に以下の4つの観点があります。

1. 外見や犬種の伝統を維持するため

ドッグショーの基準やブリーダーの繁殖方針によって、特定の犬種では「立ち耳」が理想的な外見とされてきました。特にドーベルマンやシュナウザーは、立ち耳の姿が特徴的であると考えられ、伝統的に断耳が行われてきた経緯があります。

しかし、近年では海外のドッグショーでは断耳しないのが標準になりつつあり、FCI(国際畜犬連盟)の基準を採用している国々では、外見目的の断耳は禁止されています。そのため、自然な姿を尊重する動きが広がっています。

2. 仕事上の理由で怪我を防止するため

作業犬や護衛犬として使用される犬種では、耳が敵に噛まれたり、障害物に引っかかったりするリスクを減らす目的で断耳が行われることがありました。例えば、ドーベルマンは護衛犬としての役割があり、戦闘時に耳を掴まれないようにするために断耳が行われていました。

しかし、現代では作業犬として活躍する機会が減り、家庭犬として飼われることが一般的になったため、この理由での断耳の必要性はほとんどなくなっています。

3. 衛生的に保ち感染症を予防するため

耳が長い犬種では、通気性が悪くなることで耳の中に汚れがたまりやすく、外耳炎などの感染症のリスクが高まることがあります。そのため、断耳によって耳を立たせることで通気性を向上させ、耳の病気を防ぐという考え方がありました。

しかし、定期的な耳のケアを行うことで、断耳をしなくても清潔に保つことが可能であるため、この理由での断耳の必要性は薄れつつあります。

4. 飼い主の趣味嗜好のため

一部の飼い主は、「断耳されたワンちゃんの方がカッコいい」「理想の姿に近い」と考え、外見のために断耳を希望する場合があります。

しかし、動物福祉の観点からは、ワンちゃんに痛みや負担を強いる行為であるため、飼い主の好みだけで断耳を行うべきではないという意見が強まっています。

 

断耳されてきた代表的な犬種

犬の断耳は、特定の犬種で伝統的に行われてきました。それぞれの犬種には、断耳が施されるようになった歴史的背景があり、時代とともにその必要性が変化してきています。以下に、断耳の習慣があった代表的な犬種について詳しく解説します。

1. ドーベルマン

ドーベルマンは、19世紀後半にドイツのルイス・ドーベルマンによって作出された犬種で、護衛犬や警察犬として活躍してきました。鋭い警戒心と俊敏な動きが特徴であり、断耳はその機能性を高める目的で行われてきました。

元々、護衛犬として活用されていたため、戦闘時に耳を掴まれて動きを封じられることを防ぐために断耳が行われていました。また、立ち耳にすることで聴覚の感度が向上し、より周囲の物音を敏感に察知できるとも考えられていました。

さらに、ドッグショーのスタンダードとしても、ドーベルマンは立ち耳の姿が理想とされていたため、外見のために断耳が続けられてきたという側面もあります。

しかし、近年では家庭犬として飼われることが多くなり、護衛犬としての役割が減ったことで、断耳の必要性も薄れてきています。さらに、動物福祉の意識が高まる中、断耳を禁止する国が増え、ドッグショーでも自然な耳のままのドーベルマンが受け入れられるようになっています。

2. シュナウザー

シュナウザーは、ドイツ原産の犬種で、元々は農家の番犬や害獣駆除犬として活躍していました。スタンダード・ミニチュア・ジャイアントの3サイズがあり、いずれのサイズでも断耳が行われることがありました。

断耳が行われた理由のひとつは、作業犬としての役割を果たす際に、耳が障害物に引っかかったり、ネズミや他の動物に噛みつかれたりするリスクを減らすためでした。また、シュナウザー特有のトリミングスタイルにおいても、立ち耳が理想とされていたため、美容目的での断耳も一般的でした。

しかし、現代ではシュナウザーの作業犬としての役割が減り、家庭犬としての飼育が主流になっています。そのため、断耳をせずに自然な耳のまま育てるケースが増えており、特にヨーロッパでは断耳を行わないことが一般的になっています。

3. ボクサー

ボクサーは、ドイツで作出された犬種で、元々は猟犬や闘犬として使われていました。後に軍用犬や警察犬としての役割を担うようになり、その中で断耳が習慣化していきました。

ボクサーの断耳の主な理由は、戦闘や警護の際に耳を掴まれて負傷するリスクを減らすことにありました。また、立ち耳の方が聴覚の感度が高まり、番犬や警護犬としての能力が向上するとも考えられていました。さらに、筋肉質で力強い印象を与えるボクサーの外観をより精悍に見せるため、ドッグショーの基準としても立ち耳が推奨されることがありました。

しかし、現代ではボクサーも家庭犬としての人気が高まり、護衛犬や軍用犬としての活躍の場が少なくなったことから、断耳の必要性が薄れています。特に動物福祉の進んだ国々では、外見のためだけに断耳を行うことは倫理的に問題があるとされ、多くの国で禁止されています。

4. ピットブル

ピットブルは、元々イギリスで闘犬として使われていた犬種で、19世紀にはアメリカに持ち込まれ、より筋肉質で屈強な体格に改良されました。

ピットブルの断耳の主な理由は、闘犬としての実用性にありました。試合中に相手に耳を噛まれると、激しい痛みや出血を引き起こし、闘いに不利になることから、耳を切除してダメージを最小限に抑えるために断耳が行われていました。また、闘犬文化が廃れた後も、攻撃的で精悍な外見を作るために断耳を希望する飼い主が一定数存在しました。

しかし、現在では多くの国で闘犬が禁止されており、ピットブルも家庭犬としての飼育が一般的になっています。そのため、断耳の必要性はほとんどなくなり、特にヨーロッパでは断耳を禁止する国が増えています。

5. ミニチュア・ピンシャー

ミニチュア・ピンシャーは、ドイツ原産の小型犬で、ドーベルマンによく似た外見を持っていますが、実際には異なる血統の犬種です。もともとはネズミ駆除のために飼育されていた犬であり、その作業をしやすくするために断耳が行われていました。

ミニチュア・ピンシャーの断耳は、作業犬としての機能性を高めるというよりも、外見をドーベルマンに似せるために行われることが多かったとされています。立ち耳にすることで、より俊敏で精悍な印象を与え、番犬としてのイメージを強調する目的がありました。

しかし、現在ではミニチュア・ピンシャーは完全に家庭犬としての役割が定着しており、断耳を行わない飼い主も増えています。特にヨーロッパでは動物福祉の意識が高まっていることから、自然な耳の形のまま育てることが一般的になりつつあります。

6. その他の犬種

このほかにも、以下のような犬種で歴史的に断耳が行われてきました。

  • グレートデン:大型の護衛犬として使われ、耳を立たせることで警戒心を高める目的があった。
  • アメリカン・スタッフォードシャー・テリア:闘犬として使われていた歴史があり、耳を掴まれにくくするために断耳が行われていた。
  • ワイマラナー:猟犬として活躍していたが、外見を整える目的で断耳されることがあった。

現在では、これらの犬種も家庭犬としての役割が一般的になり、断耳をしない飼育方法が主流となっています。特に動物福祉の進んだ国々では、外見のための断耳が法律で禁止されているため、自然な姿の犬が増えています。

 

犬の断耳が行われる時期

犬の断耳は通常、生後6〜12週の間に行われることが多いです。この時期に行われる理由は、ワンちゃんの成長と健康に関する以下の要因によります。

1. 痛みの軽減が期待されていた

過去には「生後間もない子犬は神経が未発達であり、痛みを感じにくい」と考えられていました。そのため、生後数週間のうちに断耳を行うことが、ワンちゃんへの負担が少ないとされていました。

しかし、近年の研究では、子犬でも十分に痛みを感じることがわかっており、無麻酔での断耳は非常に苦痛を伴う可能性があるとされています。

2. 回復が早いとされる時期

成犬になってからの手術に比べ、子犬の時期の方が傷の治りが早いと考えられています。また、組織が柔らかいため、傷口が塞がりやすいこともこの時期に行われる理由の一つでした。

3. 耳の形を固定しやすい

断耳は単に耳を切るだけでなく、その後に耳を立たせるための矯正が必要です。生後数週間の子犬は軟骨が柔らかいため、手術後にテーピングや固定を行うことで、希望する形に矯正しやすいとされています。

 

犬の断耳をする方法

犬の断耳は外科的手術によって耳の一部を切除し、その後、形を固定する矯正処置を行うという2段階のプロセスで行われます。ここでは、断耳手術の流れと矯正処置の詳細について解説します。

1. 外科手術(耳の切除)

断耳は獣医師による外科手術で行われ、一般的な手順は以下のようになります。

全身麻酔を施す(※過去には無麻酔で行われることもあったが、現在では推奨されていない)
耳の形に合わせて切除部分をデザインする(犬種ごとに適した形状が決められている)
メスやハサミで耳の一部を切除する
切除後の傷口を縫合し、感染を防ぐために消毒処置を行う
手術自体は短時間で完了しますが、手術後のケアが非常に重要になります。傷口が炎症を起こさないように、適切な消毒や抗生剤の投与が必要です。

2. 矯正処置(耳を立たせるための固定)

断耳手術を施しただけでは、ワンちゃんの耳は自然に立つわけではありません。手術後、そのままにしておくと耳の軟骨が発育し、耳が垂れてしまうため、テーピングや型枠を使って耳を立たせる矯正処置を行う必要があります。

矯正処置の方法は以下のようなものがあります。

テーピング:耳の内部に支えを入れ、外側からテープで固定する方法。定期的にテープを張り替える必要がある。
型枠(スタンド)を使用する方法:専用の型枠を耳に装着し、立ち耳の形を維持する方法。
矯正期間は個体差がありますが、数週間から数ヶ月に及ぶことが一般的です。その間、定期的なメンテナンスが必要になり、皮膚のかぶれや感染症のリスクもあるため、慎重にケアしなければなりません。

 

断耳のデメリットとリスク

断耳には、伝統的に「外見を整える」「作業犬としての機能を向上させる」といったメリットが語られてきましたが、実際にはデメリットやリスクの方が大きいとされています。

1. 犬の健康への悪影響

断耳によって、耳の構造が変わることで血液循環が悪くなることがあると言われています。特に、耳を立たせるために矯正を行う過程で、血流が妨げられると耳の一部が壊死するリスクがあります。

また、手術後の傷口が炎症を起こし、感染症にかかる危険性も高まります。特に適切なケアがなされない場合、化膿してしまい、治療が長引くケースも少なくありません。

2. 断耳による痛みやストレス

断耳は外科手術であるため、切除時の痛みはもちろん、手術後の痛みや違和感も伴います。さらに、耳を固定する矯正が長期間必要になるため、ストレスを感じやすくなることが指摘されています。

また、痛みだけでなく、断耳によってワンちゃんの行動や性格に影響を与えることもあると言われています。強い痛みを経験した子犬は、警戒心が強くなりすぎたり、人間を怖がるようになったりすることがあるため、性格形成にも悪影響を及ぼす可能性があります。

3. 断耳後に行動制限が必要

手術後は、ワンちゃんが傷口を引っ掻いたり、ぶつけたりしないように注意が必要です。そのため、以下のような行動制限が求められます。

  • エリザベスカラーの装着(数週間)
  • 激しい運動の制限
  • 耳を固定するためのテーピング管理

特に、耳を固定する矯正期間は数ヶ月に及ぶこともあり、ワンちゃんにとって大きなストレスとなります。これらの負担を考慮すると、「断耳は本当に必要なのか?」と改めて考えるべきでしょう。

4. 断耳によるコミュニケーション能力の低下

犬は、耳の動きや位置を使って感情を表現し、他の犬や人とコミュニケーションをとります。例えば、リラックスしているときは耳を後ろに倒し、警戒しているときはピンと立てるなど、耳の動きが重要なシグナルとなります。

しかし、断耳によって耳の形が固定されると、こうした微細なサインを伝えにくくなります。その結果、他の犬が適切に読み取れず、誤解やコミュニケーションの齟齬が生じる可能性があるのです。

特に、犬同士の社会的な交流では「耳の動き+しっぽの動き+ボディランゲージ」の組み合わせが重要な役割を果たします。断耳によって耳の表現が制限されると、攻撃的に見えたり、意図しないトラブルを引き起こすこともあります。

さらに、飼い主がワンちゃんの気持ちを理解しづらくなることもデメリットの一つです。耳の動きは犬の感情を知る手がかりとなるため、断耳によって感情表現が乏しくなると、飼い主が適切に対応しづらくなる可能性があります。

 

断耳に関する法律と規制

断耳は、国や地域によって法的な扱いが異なります。日本では現在、断耳を制限する法律は存在しませんが、海外では外見目的の断耳を禁止している国が増えています。ここでは、日本と海外の規制の違いについて説明します。

1. 日本で犬の断耳に関する法律や状況

日本では、犬の断耳を禁止する法律はありません。そのため、獣医師による手術はもちろん、一部のブリーダーが独自に断耳を行うこともあります。

しかし、日本の動物愛護管理法では、「動物に不要な苦痛を与えてはならない」という規定があり、今後、外見目的の断耳が動物虐待と見なされる可能性も指摘されています。

また、近年ではFCI(国際畜犬連盟)の基準に合わせて、ドッグショーでの断耳犬の出陳が制限される動きもあります。そのため、特にショードッグを目的とするブリーダーの間では、断耳をしない方向へ移行しているケースも増えています。

2. 海外での断耳規制の違い

海外では、動物福祉の観点から外見目的の断耳が禁止されている国が増えています。

  • ヨーロッパ(EU諸国):多くの国で外見目的の断耳を法律で禁止。特に、ドイツ、ノルウェー、スウェーデンでは、違反した場合に罰則が科せられる。
  • イギリス:2006年の動物福祉法で家庭犬の断耳を禁止。ただし、一部の作業犬は例外として認められる場合がある。
  • オーストラリア・ニュージーランド:獣医師が医療上の理由で行う場合のみ許可。それ以外の断耳は違法。
  • アメリカ・カナダ:州や州ごとに規制が異なり、一部の州では禁止されている。

このように、世界的には犬の自然な姿を尊重する流れが強まっており、断耳を行わないのがスタンダードになりつつあります。

 

まとめ

犬の断耳は、歴史的に作業犬や護衛犬としての役割を果たすために行われてきましたが、現代ではその必要性がほとんどなくなっています。断耳はワンちゃんに強い痛みやストレスを与え、健康リスクやコミュニケーション能力の低下を招く可能性があるため、多くの国では禁止されるようになりました。

日本では現在、断耳を制限する法律はありませんが、動物福祉の意識が高まる中、ワンちゃんの自然な姿を尊重する飼い方が広がっています。BreederFamiliesでは、動物福祉の観点から断尾・断耳を行わないブリーダーのみを掲載し、ワンちゃんに優しい飼育環境を大切にしています。

ワンちゃんを迎える際は、見た目だけでなく健康や福祉の観点も考慮し、本当に必要な処置なのかを慎重に検討することが重要です。

おすすめ記事