保護犬を飼うのは大変で難しい?里親になる前に必要な覚悟や条件を解説

「かわいそうだから」「救いたいから」——そんな優しい気持ちから、保護犬を家族に迎えたいと考える方が増えています。
しかし、実際に一緒に暮らすには、見た目や感情だけでは想像できない大変さや責任が伴います。過去に傷ついたワンちゃんたちの心と体に寄り添い、焦らず少しずつ信頼関係を築いていく覚悟が必要です。
この記事では、保護犬を迎える際に知っておきたい「難しさ」の具体例とともに、飼う前に必要な覚悟や条件を詳しく解説します。
最後には、もし不安が強い場合の選択肢として、優良ブリーダーから迎えるという方法についてもご紹介しています。
ワンちゃんにとっても、飼い主にとっても幸せな関係を築くための一助となれば幸いです。
保護犬を飼うのは大変?難しいと言われる理由

保護犬を迎えることは命を救う尊い行為です。
しかし、保護犬の中には一般的なペットショップやブリーダーから迎えるワンちゃんとは違った課題やケアが必要になるケースもあります。
ここでは、保護犬を「大変」「難しい」と感じる背景を詳しく解説します。
過去の経験で心に傷を抱えている子がいる
保護犬の多くは、飼育放棄、繁殖現場からのレスキュー、飼い主の死亡や引越しなど、さまざまな理由で行き場を失っています。中には、明らかな虐待を受けていた子もおり、強い恐怖心や人間不信を抱えているケースもあります。
こうしたワンちゃんは、「人間=怖いもの」とインプットされているため、普通の生活音や手の動きにすら過敏に反応してしまいます。過去のトラウマを癒すには、無理に撫でたり構ったりするのではなく、存在をそっと受け入れ、見守る時間を大切にすることが求められます。
信頼関係を築くには数ヶ月から年単位の時間が必要になることもあり、焦らずワンちゃんの気持ちに寄り添う姿勢が不可欠です。
万全の健康状態ではない子がいる
保護犬の中には、健康状態に何らかの不安を抱えている子もいます。
多くの保護団体や行政施設では、保護直後に動物病院での診察や必要な治療が実施されており、ワクチン接種や寄生虫の駆除、避妊去勢手術といった基本的な医療ケアは済ませたうえで譲渡されるのが一般的です。譲渡前には健康状態や治療歴についても丁寧に説明されるため、初期の医療的な不安がすべて飼い主に委ねられるわけではありません。
それでも、過去の飼育環境や年齢の影響から、慢性的な疾患や治療途中の症状を抱えているケースもあります。たとえば、フィラリア感染や歯周病、皮膚疾患、関節のトラブルなどは、譲渡後も継続的な通院や投薬が必要になることがあります。また、保護時点では表面化していなかった体調不良が、生活環境の変化によって明らかになることもあります。
こうした場合には、医療費や通院の時間的・精神的な負担がかかる可能性もあるため、あらかじめ心と時間にゆとりを持ってお迎えすることが大切です。
一方で、飼い主の愛情とケアを受けながら、少しずつ健康を取り戻していくワンちゃんの姿は、大きな感動をもたらします。最初は不安そうだった子が、表情に明るさを取り戻し、ごはんをしっかり食べ、元気に散歩を楽しむようになる——そんな変化は、かけがえのない喜びであり、命と向き合う尊さを教えてくれます。
しつけが難しい場合がある
元飼い主にしつけられた経験がなかったり、劣悪な飼育環境で育ったことで、基本的なしつけが入っていない子も多くいます。たとえば、
- トイレの失敗
- 無駄吠え
- 家具の破壊
- 抱っこや首輪を極端に嫌がる
など、日常生活に支障をきたす行動が見られることがあります。
また、叱るしつけがトラウマになっている場合、同じ方法は逆効果です。行動修正には「ポジティブ・トレーニング」(褒めて伸ばすしつけ)が効果的で、根気と一貫性が重要です。プロのトレーナーと連携するのも一つの手段です。
保護犬との相性を見極める必要がある
保護犬には、それぞれに違った背景と性格があります。甘えん坊で社交的な子もいれば、人見知りで触れられることを嫌う子もいます。
また、先住犬や猫がいる場合や、小さなお子様がいる家庭では、相性を慎重に見極めることが不可欠です。突然の吠えや攻撃行動が出ることもあるため、環境によってはお互いにとってストレスになることもあります。
そのため、保護団体では「トライアル期間」を設けて、一定期間一緒に暮らしてみたうえで正式譲渡する流れを取っていることが一般的です。
時間と労力が必要になる
保護犬との暮らしは、まるで「心のリハビリ」のようなものです。新しい生活やルールに慣れてもらうには、毎日の積み重ねが必要です。
一見して順調に見えても、ふとしたことで後戻りすることもあります。そうした波を受け止めながら、愛情と忍耐で支える覚悟が必要です。
散歩・食事・しつけ・健康管理といった日常的なお世話に加えて、心のケアという目に見えないサポートも求められます。
保護犬の代表的な性格

保護犬の性格は千差万別ですが、保護された経緯や育ってきた環境によって、以下のような傾向が見られることがあります。
臆病で落ち着きがない
些細な物音にも驚いたり、常に周囲を警戒して落ち着かない様子が見られることがあります。過去に虐待や放置をされていた子に多い特徴で、初期の段階では外出や来客などもストレスの要因になります。
まずは「安全基地」となるスペース(クレートやケージ)を用意し、環境を整えてあげることが第一歩です。
警戒心が強く無駄吠えや破壊行動をしてしまう
知らない人への吠え、ドアの開閉音への過敏反応、留守番時の破壊行動などは、環境変化への不安や過去の恐怖が原因となっていることがあります。
無理に叱らず、原因を探りつつ、段階的に安心感を育てていく必要があります。
心を閉ざしており人に慣れていない
目を合わせない、近寄らない、抱っこを嫌がるといった行動は、「怖い記憶」が残っているサインかもしれません。
こうした子には、「見守ること」が最大の愛情です。焦らず、日々の生活の中で「この人は安全だ」と気づいてもらうことを目指しましょう。
飼う前に必要な覚悟

「かわいそうだから」だけでは務まらないのが保護犬の里親です。命を預かる覚悟として、次のような心構えが必要です。
焦らず時間をかけて信頼関係を築く
信頼は“与えるもの”ではなく、“育てるもの”。保護犬が安心して心を開くまでの時間は犬によって異なり、早くて数週間、長ければ数年かかることもあります。
焦りや期待を押しつけず、「今日も生きていてくれてありがとう」という姿勢で接することが、信頼関係の礎になります。
無理のない範囲で社会化を進める
保護犬の社会化は、普通の子犬よりも慎重さが必要です。散歩で他犬とすれ違うことすらストレスになる場合もあります。
まずは家の中でのルールや、人との距離感を学ぶところから始めましょう。できないことを叱るのではなく、「できたことを褒める」ことで自信を育てていくのがポイントです。
愛情を持って接する
愛情は、最良の薬です。ただしそれは、“抱きしめる”ことではなく、“そばにいること”でもあります。
日々の小さな変化を見逃さず、「あなたはもう独りじゃないよ」という気持ちを、行動で示していくことが求められます。
保護犬を引き取るためのよくある条件

保護犬を迎えるには、「飼いたい」と思っただけではすぐに譲渡されるわけではありません。ワンちゃんの安全と福祉を守るため、保護団体や行政施設では一定の条件を設けています。
ここでは、よくある条件とその背景、注意点について詳しく解説します。
年齢
多くの保護団体では、20歳以上の成人であることを基本条件としています。これは、生活基盤が安定しており、契約や責任を負える年齢とされているためです。
また、団体によっては上限年齢を設けていることもあり、65歳~70歳以上の方は譲渡対象が高齢犬に限定されたり、後継飼育者の同意が求められるケースもあります。
実際に、高齢の里親希望者が急な入院などで飼育が困難になり、再び犬が保護されるという事例もあるため、団体側は「その子の一生を守れる体制があるか」を特に重視しています。
家族構成と生活スタイル
同居する家族全員の同意は必須です。誰かが反対していたり、犬が苦手な人がいる場合、ワンちゃんが落ち着いて生活できず、ストレスやトラブルの原因になることがあります。
また、以下のような生活スタイルもチェックされることがあります:
- 長時間の留守番が多くないか(目安として1日8時間以上の不在が続く家庭は難しい場合も)
- 夜勤や不規則勤務があるか(夜間に不在で昼間に睡眠を取るような生活では、十分なふれあいが難しい)
- 小さなお子さんがいる場合、事故や誤解のリスクを防げるか
たとえば「吠え声に赤ちゃんが驚く」「子どもが無理に触って噛まれる」といったリスクもあるため、保護団体はワンちゃんの性格と家庭の状況を照らし合わせて判断します。
経済状況
ワンちゃんとの暮らしには、日々のフード代やトイレシート、予防接種、健康診断、通院費などがかかります。特に保護犬の場合、持病や高齢による医療費が想定以上にかかることもあります。
保護団体では給与明細の提出まで求められることは少ないですが、「安定した収入があり、突発的な医療費にも対応できるか」は大切な確認事項です。
また、経済的に厳しい方が「無料でもらえる」と誤解して譲渡を希望するケースもあるため、譲渡費用(医療費や避妊去勢費などの一部負担)についても事前に確認しておきましょう。
飼育経験や先住犬の有無
初めてワンちゃんを飼う場合は、サポート体制の整った団体を選ぶと安心です。先住犬がいる場合は相性チェックも行われます。
飼育環境
「犬を飼える住居であること」は当然ながら最も基本的な条件です。
具体的には:
- ペット可の賃貸物件かどうか(管理規約も含めて)
- 室内で安全に過ごせるスペースがあるか
- 脱走防止対策(玄関・ベランダ・庭など)が整っているか
たとえば、玄関の開閉時に飛び出してしまう事故や、リードをつけないまま庭で遊ばせた結果、逃走してしまったという事例も少なくありません。
室内飼育が条件であることが多く、「外飼い希望」だと譲渡が難しいこともあるので、事前に確認が必要です。
トライアル期間
ほとんどの保護団体では、**正式譲渡の前にトライアル期間(お試し期間)**を設けています。
期間は数日から1ヶ月以上とさまざまですが、その間に以下のような点を確認します:
- ワンちゃんが家庭環境に馴染めそうか
- 家族全員が無理なく世話ができているか
- 先住動物との関係に問題がないか
- 不安・問題行動に対応できそうか
トライアル中に「どうしても相性が合わない」「体調が悪化してしまった」などがあった場合、無理に譲渡を続けずに団体と相談のうえ、戻すという選択肢が残されていることも、里親希望者にとって安心材料となります。
保護犬の飼育やしつけが難しいと感じたら

保護犬を迎えたい気持ちはあるけれど、「ちゃんと育てられるか不安…」「しつけがうまくできる自信がない…」と思っている方も多いのではないでしょうか。
実際、過去の環境によって問題行動が出る子もいるため、不安を感じるのは当然のことです。
大切なのは、「すべて完璧にやろう」と思いすぎないことです。保護犬との暮らしは、最初から“理想の関係”ができあがっているわけではなく、少しずつ築いていくもの。経験がないからといって諦める必要はありません。
多くの保護団体では、しつけや生活に関する相談に乗ってくれる体制が整っています。事前の説明や見学の際に、その子にどんなケアが必要なのか、今どんな状態なのかをしっかり教えてくれるはずです。必要であれば、トレーナーや獣医師と連携してサポートしてくれる団体を選ぶのも一つの方法です。
また、「もし自分には難しいと感じたら…」と不安を強く感じている方は、保護犬ではなく、信頼できるブリーダーから迎えるという方法も検討できます。
ワンちゃんを家族のように大切に育てているブリーダーであれば、親犬の性格や子犬の様子、生活スタイルとの相性なども詳しく説明してくれるため、不安が少ない状態でお迎えを考えられます。
「できるか不安」だからこそ、無理をしない選択をすることも、ワンちゃんの幸せにつながるということを覚えておいてください。
まとめ
保護犬を迎えるという選択は、ワンちゃんの命を救い、その後の人生を大きく変えるかもしれない尊い行動です。
しかしその裏には、過去に傷ついた心のケアや、継続的な医療やしつけなど、想像以上に大きな責任と覚悟が求められます。
この記事では、保護犬を「飼いたい」と思ったときにまず知っておくべき現実や、飼う前に確認すべき条件・心構えについて詳しく解説してきました。
また、「不安が大きい」と感じた方に向けては、ワンちゃんを家族のように大切に育てている優良ブリーダーから迎えるという選択肢もご紹介しました。
大切なのは、「どんな方法で迎えるか」よりも、「ワンちゃんの一生と丁寧に向き合えるか」。
無理のない形で、自分とワンちゃんが心から幸せになれる出会いを見つけていただけたらと思います。